センター長ご挨拶

 

 私の研究者としての専門分野は観光ではなく土壌学で、土の作物を生産する働きであったり、環境の一要素してどのような役割を果たしているのかといったことを調べ、土の働きを改善する方法について教育研究をしています。私は、自身の研究や観光目的でこれまでに30数カ国を訪れ、多様な自然環境、文化、歴史、人の生活に触れてきました。物見遊山で景勝地や雑多な市場を訪問したりすることもありますが、どこに行っても、それぞれの国や地域の土はどんなだろう?どれくらい作物が取れるだろう?その地域の経済や文化、人の生活や人口分布にどのように影響しているだろう?と考えます。そして、地域が異なると土に対する人の認識や接し方(管理方法)が変わり、その背景には自然環境、宗教、文化や慣習その他の因子の違いがあります。書籍や他者から得た知識は、自分の生活にも関わる事象と絡めて考えることにより、理解が深まると同時に他分野への関心と知識の広がりと総合知が深まるという経験を重ねてきました。これらの経験を通じて実感してきたことは、学びにおける異分野の接点の重要性です。専門知と実社会の接点を意識して教育研究を実践している教員は多くいると思います。しかし、異分野との接点を意識した教育研究の機会は多くはありません。

 大学において、学生は専攻する分野だけでなく、幅広い教養科目も学びます。しかし、それら複数の分野を関連づけて思考する機会は乏しく、学びを広げ・深める機会に恵まれず卒業する学生が多いと感じています。

 そこで、国際観光教育推進センター(以下、本センター)では、広範な学問領域の教育・研究を行っている島根大学の学生が「観光」という分野において自らの専門の地域や社会との関わりに気づき、専門を学ぶことの意義を深く理解(再認識)して能動的に学ぶ(研究する)機会を提供します。

 「観光」はいずれの分野に対しても親和性が高く、多くの教員と学生が観光を通して自らの専門と地域・社会との接点を見出すことができる分野です。島根県には、ユネスコ世界文化遺産の石見銀山遺跡、隠岐ユネスコ世界ジオパーク、国宝の出雲大社本殿、神魂神社本殿、松江城をはじめ7つの日本遺産など、豊富な観光資源に恵まれた地域です。本センターにおいて、この豊かな観光資源を活用したユニークな教育プログラムを提供できることは島根大学の強みです。

 本センターの主な事業として、学部の副専攻教育プログラムを構築・運営します。観光に関する既存の知識を学ぶ(知識の集約)が目的ではありません。本学の皆さんが所属する学部や研究科の専門分野に縛られることなく、「観光」の分野において専門知を活かして自由/独創的な「仮説(アイデア)」を立てて、現場で思考、そして可能であれば実証を試みてほしいと願っています。この専門×観光の学びを通じて新たな社会的/学術的/経済的価値の創造を促す教育プログラムの構築を目指しています。また地域のニーズを受けて観光人材育成のための社会人向けのリカレント教育プログラムも2021年から実施しています。

 最後に、日本では「観光立国推進基本法(2007年1月)」を施行し、観光を国家戦略として位置付けて、観光産業の国際競争力の強化、人材育成、環境の整備などを進めています。世界的なコロナ感染症の蔓延により足踏みはしましたが、今後withコロナの時代においてこの動きは再加速します。この世の中の動きと連動した教育研究の促進と産官学連携による社会貢献が、大学に期待されていることを強く感じています。本センターの事業を通じて、本学の学生の学修の質の向上のみならず、教員への観光分野に対する視野の拡充を図り、観光から派生する専門領域の研究への発展、そして観光分野における地域振興に貢献できるよう努力して参りたいと思います。

国際観光教育推進センター長

増永 二之